港からわずか5kmほど先の沖にある島に行く船は、玄界灘の波に思いのほか揺れる。
狭い後甲板に出た14歳の少女は、手すりをしっかりつかんで海を見ている。大丈夫かと尋ねたら、小さな声で「怖い」と言う。
「青旅」に来た彼女は中学3年生で、来年は高校受験である。
彼女まったく笑わない。カメラを向けると視線が泳ぐ。つまらなさそうな表情で僕のリクエストに応える。
笑ってもらいたいのはやまやまだけど、無理に笑顔を作らせて何になろう。
それが14歳という彼女の今なのだ。
それでも何か面白くなったときに、ほんのかすかに頬がゆるんで表情が変わるのが可愛らしい。
今まで一人でどこかへ行ったこともなく、行きたい気持ちもないという。
休日は家でゲームするか寝ている。あ、友達をカラオケに行ったと言っていたな。
撮影が終わったら、塾に行って数学を勉強するという。
今日の旅も楽しいことはなにもなく、ムダな時間だったと思われているかもしれない。
それでもいいのだ。知らない町の知らない道を歩くのは、それだけで脳が活性化する。
と、いうのをどこかで読んだ気がする……。今夜の塾では数学の問題がよく解けるのじゃないか。
彼女が今一番欲しいものは「お金」だそうだ。
どのくらいほしいと聞いたら「ディスニーランドに行きたいから」と言うから5万円くらいか。
友達と行きたいそうだが、福岡に住む中学生にとってはハードルが高い願望だ。
わずかに残る子どもらしさと大人になりきれないもどかしさ。
いつかそれを抜け出して、彼女は知らないうちにひとり旅を始めるようになるだろう。
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