今どき本を読む子どもは珍しい。
待合せで会った12歳の少女の手には『薬屋のひとりごと』という本があり、西武線の下り電車の中で一人座ってそれを読む。
一瞬、彼女は旅慣れてるのかなと思ったが、そんなことはあるまい。
自分なりの時間の過ごし方を知っているのだろう。
終点で降りると彼女はは落ち着いた様子であたりを見回す。
知らない町に来たはずなのに緊張することもない。
ただ夏の太陽にさらされてながら歩く。
秩父の中心部は観光地化されているけれど、少し脇道に入ればまだ古い家並みがところどころに残っている。
古い街並みを歩くのは僕の趣味で、青旅に来てくれた子らがそれに付き合ってくれるだけでありがたい。
細い通りに面して一軒の町家があった。
建てた人はセンスのある人なのだろう。
木枠の窓は凝った幾何学的なデザインだ。木塀には透かし模様があり、そこに二羽のおしどりのレリーフがあしらわれている。
彼女はぴんと跳ね上がった特徴ある羽を持つ鳥の名前は知らなかったが、二羽いる理由を尋ねたら「……おしどり夫婦?」と答えて、おおよく知ってるじゃないか。彼女は得意そうにふふっと笑う。
秩父鉄道の電車を樋口駅で降りて荒川のほとりに下りれば、渦を巻く巨大な洗濯機のように水が流れている。
おそるおそる岩場に降りた彼女は急流を眺めている。
思いもよらないところに連れて来られて楽しんでくれてるのかどうか、わからない。
レンズ越しの彼女は、ときおり僕の気持ちを見透かすかのような表情を見せるから、どきりとする。
大人になりはじめた彼女が見ている世界を僕は撮れたのだろうか。
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