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「青旅」鹿島臨海鉄道で夏の海へ




スマホの小さな画面は15歳の少女をいとも容易く吸い込んでしまう。

 

電車に乗って移動する時間の9割以上、彼女はほとんどスマホを見て過ごす。

 

窓から外を見るように促しても、ちょっと顔を上げて風景を見やるとすぐにまた視線は手にするスマホに落ちてしまう。 

彼女に窓外の景色はなんの興趣も与えない。

もったいないなあと思うものの、無理強いしても仕方がない。それが彼女なのだから。

 

 

 

移動時間が片道3時間にもなる「青旅」は、鹿島灘駅に着いてから海を目指して歩く。

 

日焼けして、髪を短くしている彼女はどう見ても「少年」で、なおかつ歩いているときでさえ、急に踊り出したりよそ見をしたり走り出したりして、小学生男子とまるで変わらない。

 

動きが予想つかなくて、後ろから追いかけるようにして歩く。「青旅」でこんなに動き回る子は初めてだな。

 

 

駅から2km歩いてようやく海に出ると、彼女は待ちかねたようにパンツの裾をまくり上げて、靴と靴下を脱ぐと一目散に駆け出す。

 

押し寄せる太平洋からの波と戯れている姿はきらきらとしていて、デビューした頃の内田有紀みたいだ。彼女に知っているかと問うたら「知らない」とつれない返事をもらう。そりゃそうだ。

 

 

 

外見はさばさばとしたボーイッシュな彼女なのだが、おそらく本来は内向的な性格であろう。

 

カメラを向けるとすぐにピースサインや面白いポーズをするが、きっと見られるのが苦手なのだろうと思う。そうして自分を保っているのだ。

 

 

太平洋から押し寄せる波は何度も彼女の脚を洗う。

まっすぐに伸びる細い足は引き締まっていて、少しもよろけることがない。

思春期は楽しいことも悩みもたくさんありすぎてたいへんだけど、彼女は彼女のままで大人になってゆく。

 

僕は海に向かって走る彼女の背中を見ている。




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